桃太郎 第3話
桃太郎はずんずん行きますと、大きな山の上に来ました。すると、草むらの中から、「ワン、ワン。」と声をかけながら、犬が一匹駆けて来ました。
桃太郎が振り返ると、犬は丁寧に、お辞儀をして、
「桃太郎さん、桃太郎さん、どちらへおいでになります。」
とたずねました。
「鬼が島へ、鬼征伐に行くのだ。」
「お腰に下げたものは、何でございます。」
「日本一の吉備団子さ。」
「一つ下さい、お供しましょう。」
「よし、よし、やるから、着いて来い。」
犬は 吉備団子を一つ貰って、桃太郎の後から、着いて行きました。
山を下りて暫く行くと、こんどは森の中に入りました。すると木の上から、「キャッ、キャッ。」と叫びながら、猿が一匹、駆け下りて来ました。
桃太郎が振り返ると、猿はていねいに、お辞儀をして、
「桃太郎さん、桃太郎さん、どちらへおいでになります。」
とたずねました。
「鬼が島へ鬼征伐に行くのだ。」
「お腰に下げたものは、何でございます。」
「日本一の吉備団子さ。」
「一つ下さい、お供しましょう。」
「よし、よし、やるから、ついて来い。」
猿も吉備団子を一つ貰って、後からついて行きました。
山を下りて、森を抜けて、こんどは広い野原へ出ました。すると空の上で、「ケン、ケン。」と鳴く声がして、きじが一羽飛で来ました。
桃太郎が振り返ると、雉は丁寧に、お辞儀をして、
「桃太郎さん、桃太郎さん、どちらへおいでになります。」
とたずねました。
「鬼が島へ鬼征伐に行くのだ。」
「お腰に下げたものは、何でございます。」
「日本一の吉備団子さ。」
「一つ下さい、お供しましょう。」
「よし、よし、やるから、ついて来い。」
きじも吉備団子を一つもらって、桃太郎のあとからついて行きました。
犬と、猿と、雉と、これで三人まで、いい家来ができたので、桃太郎はいよいよ勇み立って、またずんずん進んで行きますと、やがて広い海ばたに出ました。
そこには、ちょうどいい具合に、船が一艘繋いでありました。
桃太郎と、三人の家来は、早速、この船に乗り込みました。
「私は、漕ぎ手になりましょう。」
こう言って、犬は船を漕ぎ出しました。
「私は、舵取りになりましょう。」
こう言って、猿が舵に座りました。
「私は、物見を務ましょう。」
こう言って、雉が舳先に立ちました。
うららかないいお天気で、まっ青な海の上には、波一つ立ちませんでした。稲妻が走るようだといおうか、矢を射るようだといおうか、目の回るような速さで船は走って行きました。ほんの一時間も走ったと思うころ、舳先に立って向こうを眺ていた雉が、「あれ、あれ、島が。」と叫びながら、ぱたぱたと高い羽音をさせて、空に飛び上がったと思うと、スウッと真っ直ぐに風を切って、飛んでいきました。
桃太郎もすぐ雉の立った後から向こうを見ますと、なるほど、遠い遠い海の果てに、ぼんやり雲のような薄黒いものが見えました。船の進むにしたがって、雲のように見えていたものが、だんだんはっきりと島の形になって、現れてきました。
「ああ、見える、見える、鬼が島が見える。」
桃太郎がこういうと、犬も、猿も、声をそろえて、「万歳、万歳。」と叫びました。
見る見る鬼が島が近くなって、もう硬い岩で畳んだ鬼のお城が見えました。厳めしい鉄の門の前に見はりをしている鬼の兵隊の姿も見えました。
そのお城の一番高い屋根の上に、雉が止まって、こちらを見ていました。
こうして何年も、何年も漕いで行かなければならないという鬼が島へ、ほんの目をつぶっている間に来たのです。
←もどる すすむ→
▲ Back to Top
▲ Back to Top of Fairy Tale
▲ Back to Index of Home Page
童話の部屋 vol0.03b Copyright (C) ダ−シ−, 2011-2011, All rights reserved.